令和3年6月 
エゾシカの樹木食害・角擦り観察について       
                                                                                                                  
                                                                       千歳市 西川惟和               

はじめに
 数年前からよくシカを見かけるようになり、近年一段と増えてきたように思われる。また周囲の樹木に沢山の食痕がみられるようになりました。私が現在の団地に住み着いたころは鹿を見かけることはほとんどありませんでした。
 シカについての食害などの調査は行政などでなされておりますが、ぼけ老人の感覚で観察した結果を推測と憶測を交えて述べてみたいと思います。

エゾシカは北海道のみに生息する二ホンシカの亜種で雄は、体長190㎝、体重150㎏にもなる国内最大の草食動物です。明治初期の大雪と乱獲により一時は絶滅寸前までに生息数が減少しましたが禁猟などの保護政策を行うことにより、個体群を維持するまでに生息数が回復しました。エゾシカの持つ高い繁殖力と生息環境の変化に、現在は急速に分布域を拡大しながら生息数を増やしています。

その結果農林業被害や交通事故の増加など、人間社会への影響や強度の採食や踏付けによる生態系への影響など深刻な問題となっています。北海道では人とエゾシカの適切な関係を築き、地域社会の健全な発展に居するため、平成26年3月に制定した「北海道エゾシカ対策推進条例」に基づき、捕獲等による個体数の管理や、捕獲個体の有効活用推進など総合的かつ計画的にエゾシカ対策を進めています。北海道環境生活部自然環境課エゾシカ対策係資料平成30年度エゾシカの推定生息数等によると、南部地域を除き66万頭、東部地域(オホーツク、十勝、釧路、根室)31万頭、 西部地域(空知、石狩、胆振、日高、上川、留萌、宗谷)35万頭、南部地域(後志、渡島、桧山)13万頭捕獲状況(全道)11.2万頭 農林業被害額(全道)約39億。

 平成23年度77万頭からすれば減少していますが、私が住んでいる団地周辺においては増加しているように思われます。減少しているとすれば生息場所の環境の変化により移動してきたものなのか、空港周辺の山林、原野などは驚くほど開発され、駐車場、太陽光発電(自然エネルギー)用ソーラーパネルが設置されてきており、太陽光発電設備は空港周辺ばかりでなく、いたるところに増えてきていいます。これらから察すると生息数は減少したが、密集度が高まったことによるものか。

まず驚いたのが昨年あたりから自宅のムスカリを食べていること、また今年は幅11m道路を挟んで2kmほど両脇の緑地帯にツリバナが植えられているが山側に面した所は数多くの食痕が見られます。

森林の中はどうなっているのか、近くの国有林の林道筋の食害などについて観察した。ここは近くの住民の自然好きな人の散歩道にもなっており、(クマ注意看板などもあり人は少ない)また意外と動植物も豊かでまじかに観察でき、ぼけ老人のお気に入りの散歩道でもあります。

 この国有林は南は苫小牧、白老、西は伊達、北は札幌、恵庭につながり、また団地は職住近接型を目的に山林を造成してできたところであるため、シカや熊が出てきても何も不思議ではなく、むしろ出てきて当たり前の場所であると、ぼけ老人は思うのである。食害の観察は散歩がてらに4月雪解け後に実施しました。
     
 お気に入りの散歩道(夏) お気に入りの散歩道(秋)   ヒグマ注意看板
       
 ときどき出逢うキタキツネ(コンタ)  ヤマウルシ食痕  ミズナラ食痕  ノリウツギ食痕
       
ケヤマハンノキ角擦り痕  トドマツ角擦り時についたシカの毛 ツリバナ(左)ヤマウルシ(右)食痕   アオダモ食痕
     
 ハルニレ食痕 緑地帯ツリバナ食痕  ツリバナを食べた来たシカの足跡 

2020年7月4日支笏湖地区パークボランティア研修で特定非営利活動法人EnVision環境保全事務所 研究員 早稲田宏一 氏によるヒグマとエゾシカについての講演があり、その中で移動や行動特性等詳しい説明がなされた。早稲田氏はハンターもやられており姉崎氏とも交流があったとのこと、姉崎氏は(クマにあったらどうするか・アイヌ民族最後の狩人姉崎等 姉﨑等(語りて)片山龍峯(聞きて) ちくま文庫から出版)でどうゆう人かは本の内容から推測しており、実学的な講演内容は、ボケ老人もエゾシカの食害観察のまとめ中で、エゾシカの行動特性(定着型と季節移動型)や嗜好特性としてミヤコザサ、クマイザサ、ハルニレ、ツリバナ等など話が聞けたことはラッキーであった。講演が終わった後思い出したのが嫌いな植物は何かを質問しなかったこと、やはりボケ老人である。嫌いな植物はある程度頭の中に感じ取っており、ネット検索すれば出てくるなと思っていたところ、8月2日環境省支笏洞爺国立公園パークボランティアの観察会のおり、洞爺管理事務所の職員の方が参加され、雑談中洞爺湖の中島のシカについてお聞きしたところ実際にシカの調査もなされたとのことで、中島のシカが食べなかった植物をお聞きしたところ、ハイイヌガヤ、フッキソウ、ハンゴンソウ、フタリシズカ、ミミコウモリ、アメリカオニアザミとのことであった。ふる里で飼育していた牛馬は原野の放牧地等においてはクララ、馬酔木、ワラビ、アザミなどは食せず、またキツネノボタン、セリなども喰わなかった。家畜である牛馬においても、野生の草食動物同様毒草や臭いのあるものなど、本能的に喰わないものと思われる。
 観察した樹木の中で一番食痕の多かったものはヤマウルシで次にノリウツギであった。なぜヤマウルシとノリウツギが多いのかぼけ老人は考えた。
 ノリウツギは皆さんご存知の通りサビタとも言われ観察会では和紙を漉く時の糊として使用したなどの説明をしますが、樹皮の内皮に含まれるヌルヌルとした成分“糊”(ねり)はカラクチュル酸などたくさんの多糖類を含んでおり、これがコウゾウ、ミツマタ、ガンビなどの和紙の原料となる繊維を分散させ沈殿を防止し、また漉き上げて重なった紙と紙が一枚づつ容易に分離する効果もあり和紙を漉くときの“ねり”として使用されたとのこと、ぼけ老人も早速、枝の表皮を剥ぐとヌルヌルとしており齧ってみると意外と人間も食えそうなので、シカとしては冬の栄養補給とを兼ねたごちそうかも知れないとぼけ老人は思うのである。次に一番食痕が多かったヤマウルシであるが、ヤマウルシは観察会のとき、ツタウルシ同様注意を要する植物の一つである。
 シカはウルシオールなどのかぶれ成分に耐性を持っているのだろうか。ヤマウルシが生えている周囲には採食できる他の植物もあるのになぜヤマウルシなのか、ウルシオールにかぶれたシカが馬面のようになっているのを想像し、これが馬鹿になったのかとぼけ老人は思ったりもするのである。
 ヤマウルシについて調べていくうち、ウルシの薬用効果で「生漆、乾漆」とういう漢方薬の効用の一つに駆虫とあり寄生虫による腹痛など寄生虫症に用いられるとのこと、“これだと”ぼけ老人の頭の中に蝋燭が燈ったのである。(漆の実は絞って蝋燭にしたとのこと、これは関係ありません)老人の少年時代は腹の中は寄生虫だらけで、よく虫下しを飲まされたものである。シカもたくさんの寄生虫を宿しており寄生虫による感染症などにより相当数のシカが淘汰されていると思われる。シカはこの駆虫効果を知っていて食しているのであろうかとボケ老人は思うのである。ウルシは縄文時代から塗料や接着剤として使用され、また抗菌作用もありコロナ対策としての研究をしている人もあるそうでウルシは凄いのである。
 ツリバナについては樹林内ではヤマウルシのそばの一か所しか確認できなかった。ツリバナについては種子を包む橙赤色の仮種皮にはアルカロイド成分を含み誤って口にすると少量でも嘔吐や下痢をするとのこと、緑地帯を含め果実を採食した形跡は確認できなかった。また緑地帯のツリバナは車道、歩道ともに除雪が行き届いており、採食環境は良好でツリバナの幹は平滑で齧りやすいのかとも思われる。

 角擦りは、生え変わった袋角の外皮を剥す為繁殖期前の8月下旬から10月にかけて行うとのこと、観察場所においてはトドマツに多くの痕跡が見受けられ、またケヤマハンノキにも見られた。面白いことに直径13㎝ほどの若木ばかりであり、この角擦りの痕跡は写真で見る樹皮が剥がれたような大きいものでなく小さいのである。これは採食のための角擦りではないのか痕跡のある樹木の下を確認したが体毛は幹に付着していたが角の表皮を確認することはできなかった。

落ちていても昆虫などに食べられなくなってしまうのかも知れない。
 林野庁の森林における鳥獣被害対策のためのガイド「森林管理技術者のためのシカ対策の手引き平成24年3月版」によるとシカの好む環境として、シカは食物となる下層植物が豊富にある伐採地や姿を隠せる樹林が混在するモザイク的な森林環境を好み、またシカは平坦地を好みます。古い時代は山の中よりも平野に数多く生息していたが、人が平野を使い尽くしてシカは山の中に生き残ることになりました。とくに尾根沿いの平坦地や陽当たりの良い緩斜面を好みます。との記述があり、おなじシカの仲間であるトナカイについて調べてみると、まず生育環境が北極圏周辺で半家畜化された動物で人為的な分布も多いそうで、またシカ科で唯一雌雄ともに角があり、雄は春に角が生え秋から冬にかけて抜け落ち、雌は冬に角を残し春から夏にかけて抜け落ちる。雌の角があるのは冬の子育て摂食に関係があり、蹄もシカと違い大きく積雪を歩くのに適している。
 
シカはもともと生息環境が平野部であり、蹄も細く冬の積雪特に山林などは弱いのである。冬山・残雪が残る春山登山をなさった方はお分かりかと思いますが、カンジキを付けては歩けますがツボ足だと歩けません。カンジキの雪の下は倒木やブッシュが一杯で、ましてやシカの細い脚と蹄では問題が生じます。
 これらから冬季には積雪の少ない南面の緩斜面、動きやすい平坦部や林道縁などで採食し、また歩きやすい樹林と接している公園や住宅街に出没するようになったとぼけ老人は思うのである。

おわりに
 地球の温暖化が叫ばれる中、地球環境に変化がおき、気候変動等による災害等が報道されていますが、私達も日常の生活サイクルの中で、ちょっと視点を変えるだけで周囲の環境の変化が読み取れるのです。例えば道端の草花一つとっても変化しています。また何気なく見過ごしていた中に大発見をすることもあります。今回散歩道における冬季のシカの食害について観察し、ぼけ老人の推測、憶測を交え述べて見ました。

 最後に”しかと“(しらばっくれたり、知らないふりをすること)という言葉があります。これは花札の10月の札に描かれている鹿が横を向いていることから「鹿十(しかとう)」博徒の隠語に由来する洒落言葉だそうです。ガッテン

※写真は食べられたムスカリとギボウシの園芸種で9月16日に発見、採食行動が変化して来ているのか?