堀川 勉の日常の植物観察記

 1 清田緑地のサンカヨウ
 2 名もなき雑草たち
 3 区役所裏がちょいと面白い
4 ソリダゴって何? 
5 セイタカアワダチソウはどこヘ?
 6 北海道にはない晩秋風景





清田緑地のサンカヨウ

                              (札幌市 堀川 勉)

札幌市清田区に住む私にとって清田緑地は、自然観察のため足繁く通う言わばホームグラウンドです。自宅から徒歩約10分、湿地を囲む林の中には木道が設置されています。「住宅地に隣接した良好な緑地として永続的に保存する目的」で、法律に基づき指定された特別緑地保全地区だそうです。広くはありませんが、湿地を好むヤチダモ、ハンノキ、オニグルミなどのほか、若葉が魅力のイヌエンジュやアサダなど樹種が豊富で、草花もそれなりに変化に富んでいます。積雪期の冬芽観察も含め、四季を問わず自然が楽しめるフィールドでもあります。
 ここで昨年5月、サンカヨウを初めて見つけました。きりりとした白いとフキに似た大きな葉が目を引きますが、図鑑に「山地の湿った場所」とある通り、樹林下などを好む「日蔭の花」。一時滞在していた福井県で一昨年、サンカヨウの大群生に出会い息を呑んだことがありますが、そこは標高千メートルほどの沢状地形でした。札幌近郊で見た盤渓市民の森は、湿った山の斜面でした。野幌森林公園でも確認されていますが、私はまだお目にかかっていません。緑地では今年も5月初旬、入口付近の比較的日当たりのいい場所で開花していました(写真上)。それにしても、長年通っていたのにどうして昨年まで気づかなかったのだろう
? キクザキイチゲ、オオバナノエンレイソウ、ニリンソウなど白花の春植物が多い中とは言え、貴婦人然とした容姿を見逃していたとは…。新発見に驚いたと同時に、一つの疑念が頭をよぎりました。これはひょっとして、野幌森林公園のシラネアオイのように誰かが持ち込んだ植栽株ではないだろうか? 雨に濡れると花が半透明になる様子が神秘的だとして、園芸種としても人気上昇中だそうですから。 甘い実は液果でたぶん鳥散布でしょうから、野鳥もたらした自生株があることは十分考えられますが、言わば住宅街の一角での生息に、やはり不自然さが拭えません。なぜ長く見逃していたのか自分の迂闊さに腹立ちを覚えつつ、自問自答しています。真相は藪の中ですが、人間の世迷い言にはお構いなく、自然の営みは着実に進みます。5月初め、微笑むように咲いていた花も10日ほど後に再訪すると、もう若い実を付けていました。やがて、白粉をまぶしたような藍色の果実に熟すのが楽しみです。 清田緑地にはワニグチソウやヒメザゼンソウなどが生育するのも最近分かってきました。サンカヨウの今後の行く末など、ここにはまだ見続けることがいっぱいありそうです。



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名もなき雑草たち

                              (札幌市 堀川 勉)

自宅周辺を歩き回る機会が増えると、いわゆる雑草との付き合いが深まります。雑草は一般的に「望まれないところに生える植物」と定義される一方、「いまだにその価値を見出されていない植物」と評する哲学者もいるようです。目を凝らさないと見過ごしてしまう草花を見つけ調べ始めると、図鑑になくて迷路入りすることもしばしば。哲学者の言を借りれば、調査対象として価値を見出した雑草は、自分にとってもう雑草でなくなったということなのかもしれません。
最近、名前を知るのに苦労したのは、道端にひっそり咲くオレンジ色の花でした。7月中旬、匍匐するその様子を見たときは葉や花の特徴から、色変わりのオオヤマフスマという感じでしたが、ナデシコ科で調べ始めてもそんな種はありません。ハナスベリヒユ(ポーチュラカ)にも似てもいるように思いましたが、やはり似て非なるものでした。約1カ月たち、「日本の帰化植物」(平凡社)のグラフページをめくっていて、やっと「本命」に会えました。それは、アカバナルリハコベ(写真上)。何か難関の山に登頂したときのような達成感を覚えたと言ったら、言い過ぎでしょうか?
 アカバナルリハコベは、花が瑠璃色のルリハコベ同様栽培もされているそうで、花壇から逸出したものかもしれません。よく見ると、小さいのに細部までこんな妖艶な花姿は滅多にありません。イギリスの人気小説「紅はこべ」の題名に採られ、後に宝塚の同名ミュージカルになったと分かりました。小さき者にも、知られざるドラマがあるのだと感じざせられました。自宅マンション駐車場のアスファルト裂け目から顔を覗かせていたアライトツメクサ(写真下)は、ルーペを使って辛うじて姿形が分かる小ささでした。4数性の花で他のツメクサの仲間とは違う異色の存在。千島列島アライド(阿頼度)島の名前が付くのも物珍しく、やはり確認に時間を要しました。名前にインパクトがあり以前から気になっていたシャグマハギにも、近所の道で出会えました。幕末の官軍の被り物・赤熊(しゃぐま)に見立てられた花は思った通り、もふもふした薄紅色の長毛にくるまれていました。  今年はツタバウンラン、ウスユキマンネングサ、ミチヤナギなども初対面でした。身近でも外来種が勢いを増し、一般の図鑑に載らない種を目にすることも多くなりました。思いがけない発見と、それを調べるわくわく感があると思えば、これも野の花観察の醍醐味なのでしょう。                                                            
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区役所裏がちょいと面白い

                              札幌市 堀川 勉

役所の裏側など、誰もあえて覗こうとは思わないでしょう。ところが、私の住む清田区の区役所裏は意外と野趣に富み面白い場所なのです。市民駐車場とつながる裏手のがけ地は、旧国道36号線が上を通り、斜面に樹木がへばりつき草本類も割と多様な茂みになっています。3年前の春にたまたま訪れ、ミヤマエンレイソウの白花とピンク花の競演、マムシグサの小群生、ニシキゴロモの開花などを一度に目にして以来、気になる観察スポットの一つになりました。「どうしてここに?」と思わせる草花との遭遇も少なくありません。
 今年7月に「野生のホップ」と言われるカラハナソウ(写真上)を見つけました。以前、八剣山の登山口で見たことがあり、葉が似ているなと思い近づくと、淡緑白色の小花を付けた花序が葉腋から伸び出し、茎の刺でサルナシの蔓にしっかり絡んでいました。
 ビールに使うホップのセイヨウカラハナソウが基準変種。ここのカラハナソウは雌雄異株の雄株だったため、雌花が松毬状の果穂に成長する様子は観察できません。痩果にかすかな苦みがあるそうで、無類のビール党としては「味見」したかった気持ちは残りますが、身近で出会っただけでよしとしましょう。
 ケヤマウコギ(写真下)は豊平区の森林総合研究所樹木園で見ていますが、野生では区役所裏が初めて。ウコギ科特有の球状果序に、黒く熟した丸い実が連なる姿は、幅広い刺と相まって存在感に満ちています。草刈りで今年夏、あらかた刈り取られてしまいましたが、一部が残り秋に結実していてひと安心しました。
 外来種もよく目にします。やや薄暗い木立の下に紅紫色の花を際立たせていたのは、ゴウダソウでした。まん丸い実が満月を思わせるのでルナリアの別名があります。茎頂に薄紅色の小花を数多く付けていたのはヤナギハナガサ。丈が1mにもなり、別名サンジャク(三尺)バーベナと呼ばれるのっぽの花です。ハキダメギクは、小さくても頭花が意外と目立ちました。先端3裂の白い舌状花がなかなかキュートで、「掃き溜めに鶴」とは言わないまでも、味のある名脇役の風情があります。
 がけ斜面にサワシバの高木が何本かあり、夏~秋にたくさんの実を付けます。ホップ状と形容される円柱果穂が見渡す限りぶら下がる様は、過剰なまでの実りと言いたくなるような光景です。ギンランの仲間のクゲヌマランを見つけたのには、ちょっと驚きました。
 区役所の周囲に小自然が残るのはたぶん、清田区だけではないと思います。そこが札幌の札幌らしい魅力なのでしょう。草刈りや工事のため一日で様相が変わるのは、場所柄致し方ありません。そこは覚悟のうえで区役所裏を覗いてみると、今日もまた新たな発見があります。狭いながらも意外性のある観察地だと感じています。



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ソリダゴって何?

                           札幌市清田区 堀川 勉

ある日、仏花を買いに行った花屋での店員との会話です。
 「この黄色い花は何て言うの?」「ソリダゴです」「えっ、何かタコの仲間みたいな変わった名前だね」「ソリダコでなくてソリダゴですよ」
 帰り道、忘れないように「ソリダゴ、ソリダゴ、ソリダゴ」と、まるで呪文でも唱えるようにつぶやきながら帰宅し、すぐ調べてみました。すると…。

 ソリダゴとはキク科の1属名で、標準和名はアキノキリンソウ属ではありませんか。売られるソリダゴは、オオアワダチソウやカナダアキノキリンソウの改良種など諸説ありますが、要はアキノキリンソウ属園芸品種の総称と言っていいようです。カスミソウ同様、主役の花を引き立てる脇役として使われることが多いとあります。蕾で買い求めたソリダゴ(写真上)はやはり、容姿はアワダチソウを彷彿させます。

 どうしてソリダゴなのか、厄介者扱いの外来種・アワダチソウの名前は避けたいので、属名で売り込むことにしたのではと勘繰ったのですが、これは的外れのようでした。園芸種では、ラテン語の属名をストレートに使った草花が、ソリダゴの他にもやたら多いと気付いたからです。
 ヒペリカム(オトギリソウ属)、アルケミラ(ハゴロモグサ属)、ゲラニウム(フウロソウ属)、ラミウム(オドリコソウ属)など、次から次です。調べると、園芸品種名は野生種同様、頭にラテン語の学名を置く決まりで、全体をカタカナ表記するのが原則だそうです。発音が難しいなど流通の都合上、いわゆる販売名を付けてもいいとされますが、ソリダゴの場合、短いラテン語の響きが購入意欲をくすぐるという読みがあったのでしょう。中には、和名属名のアキノキリンソウで売っている花屋もあると言いますが、それは少数派のようです。
 数年前、自宅近くの厚別川岸でオニグルミに絡まって咲く白い花を見つけ、近づいて確かめるとセンニンソウ(写真下)でした。痩果に残存する羽毛状の花柱を仙人の白髭に見立てた名前だそうで、キンポウゲ科センニンソウ属です。しかし、同属のつる性園芸種の総称は、センニンソウではなくラテン語属名のクレマチス。「クレマチス、お前もか」と、茶々の一つも入れたい心境になります。
 マンション住まいゆえ、菜園などとは無縁の生活ですが、園芸品種命名の実情を知り、野生種との関連を探る上でも、ラテン語属名もできるだけ記憶に留めたいと考え始めました。和名すらすぐ忘れるのに、属名まで覚えようなんてハードルが高いに決まっています。でも、草花観察の妙味が増すようであれば、努力目標として掲げてもいいかなと思っています。


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セイタカアワダチソウはどこへ?

                            札幌市清田区 堀川 勉

  いきなりの質問ですが、セイタカアワダチソウと聞いて、女優の十朱幸代さんを思い浮かべる人はいるでしょうか? この外来種が広く知られ始めた頃の1977年(昭和52年)に発売された曲が、ずばり「セイタカアワダチ草」です。ファンだった女優の数少ない歌なので、曲名だけは脳裏にしかと刻み込まれています。
 最近の話題と言えば昨年、芥川賞を受賞した古川真人さんの小説「背高泡立草」でしょう。題名になった花のことは、どこにでも生える雑草として最後の方にちょっと出て来るだけです。作中人物がウェブサイトでセイタカアワダチソウを調べると、学名が二つあるらしく、両方に共通するソリダゴってどんな意味だろうと、不思議がる十数行の場面です。                          二つの学名に関して、ウィキペディアに解説がありました。一つ目の「ソリダゴ(アキノキリンソウ屬)カナデンシス」は実は、複数の種を一まとめにした種複合体だというのです。もう一つの学名「ソリダゴ アルティシマ」の方が、複合体の一つのセイタカアワダチソウであろうと説明しています。
 何だか頭がこんがらがってきました。何より、種複合体なる言葉がよく理解できません。さらに悩ましいのは、セイタカアワダチソウが道内にほとんど存在しないとする最近の説です。                         
                      
これがケカナダアキノキリンソ?
  植物写真家の梅沢俊さんは、北海道新聞・さっぽろ10区版「うめしゅんのさっぽろ花の観察ノート」(昨年10月16日付)で、次のように書いています。オオアワダチソウに次いでケカナダアキノキリンソウが10月まで咲き続くと紹介した上で「有名なセイタカアワダチソウは、道内ではごくまれにしか見られないことが最近、判明しました」と明言しています。 
 藤田潔さんが3月の話題提供「花粉症の話」で触れていますが、昨年3月発行の「北方山草」第37号で北方山草会の五十嵐博さんが既に、今までセイタカアワダチソウと信じていたものはケカナダアキノキリンソウと考えられると結論付け、調査報告を載せています。両者の見分け方について、ケカナダアキノキリンソウは開花が早く草丈が低いという違いのほか、頭花総苞の短さが決め手になるとして実測数値を示しています。
 では、ごく身近だった草花なのになぜ、長年疑問も出ずに思い込みが続いたのでしょうか? セイタカアワダチソウが、突然登場と言った感じの「新顔」に置き換わってしまうのでしょうか? 図鑑などでケカナダアキノキリンソウの紹介例はほとんどなく、比較対照の相方としては情報が少なすぎる気がします。総苞の長短と言われても、現場での見極めは簡単ではなさそうです。すんなりと納得できるような形で整理されることを願ってやみません。
                       

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北海道にはない晩秋風景

                              札幌市清田区 堀川 勉

私は9月から、福井県大野市の息子の所に長期滞在中ですが、暇をみつけては近場で植物観察を続けています。そして再確認したのが、道内と道外では見る風景がかなり違うという至極当たり前の事実です。11月初旬、私が見た近所の様子をお伝えします。

本州(秋田)生まれの私にとって福井には、実りの秋の代表格カキノキの多さなど昔懐かしい自然がある一方、やはり西日本寄りの地域ならでの特色もあります。特に樹木に関しては、違いの大きさを実感しています。近くの住宅街を歩くと、この界隈はほとんどの家の庭先や玄関脇にナンテンとキンモクセイが植えられています。メギ科のナンテンは「難を転ずる」縁起物として人気の常緑低木。赤く色づき正月飾りにも使われる液果はこの時期、色鮮やかさは今一つですが、枝いっぱいに実を付けあちこちで存在をアピールしています(写真上)。香りの木キンモクセイは、「あるな」と予想すると角を曲がった民家の庭に必
ずあるといった感じで、期待を裏切りません。近づくと癖のある香水のような香りですが、空中に拡散して漂い、ほのかな甘さで鼻をくすぐります。芳香に加え、黄橙色の小花を密集させて咲かせる様は、北海道にはない穏やかな晩秋の風情です。道内の公園などに植栽されるウメモドキも目を引く存在で、垣根にも利用されています。地味な花からは想像できないほど艶やかな赤い実をたわわに付け、落葉後も残って晩秋~初冬の風景に彩りを添えます。最近知った「衝撃の事実」は、お茶の木のチャノキがツバキ科ツバキ屬だということでした。お寺墓地の打ち捨てられたような小さな墓石の脇に、皺のある艶々した葉を茂らす(写真下)低木があり、白いツバキに似た花が咲いています。野生化したチャノキだと後で分かりました。葉っぱの特徴だけ見ても、ツバキの仲間に違いないと納得です。茶畑を知る人からは「何を今さら…」と笑われそうですが、これまで縁遠かった私には、まさに新鮮な驚きでした。
道端の草花に目を転ずると、草むらに赤い灯を点々と灯すように、赤橙色の漏斗形の花が群生しています。マルバルコウ(丸葉褸紅)というヒルガオ科サツマイモ屬の外来種で、至る所で次々と咲き続け存在感はぴか一。黄色い蝶形花で花弁が渦巻状に捻じれたヤブツルアズキと混在し、道内ではお目にかかれない「赤花・黄花の競演」を演じていました。
福井には梅沢俊著「北海道の草花」を持ってきました。草本についてはかなり役立つことが分かり、植生は北海道と共通性も多いと感じています。ただ、樹木の様相はかなり違うので「♬この木なんの木♬」の乗りで、じっくりと観察を楽しみたいと思っています。

                    2021年 「エゾマツ」冬季号より

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